現在の関心事

荒井さんからESG投資に関連する現在の関心事を伺い、その中心となる論点を以下にまとめた。(2022年2月10日に聞き取り)

サステナブルファイナンスにおける株式と債券・融資の違い

債券や融資と違い、株式ではデューデリジェンスのあるのが上場時だけ。上場後はセカンダリーマーケットで、投資をする人が売買する際にデューデリジェンスをしなければいけない。機関投資家が果たすべきフィデューシャリー・デューティーとは、株式のデューデリジェンスを行い、それを世に示すこと。この一例が投資信託の情報開示だ。インパクト投資関連の投資信託の登場によって、法定資料にとどまらない投信の情報開示(インパクトレポート等)が広がっていくのではないか。また温暖化ガス排出量「ネットゼロ」社会の達成に貢献する企業が、社会で生き残るはず。そういう企業へ投資した方がインデックスよりもパフォーマンスが良くなると考えられる。

非財務情報の価値

なぜ企業の評価のされ方が変わってきたかというと、情報価値の変化が背景にある。財務情報になる前の情報としての非財務情報が注目されている。これは企業が事業活動からあげた結果としての財務情報よりも、前の段階の企業活動の情報である。最終の製品の価値はもちろん、その製品になるまでの企業のさまざまな活動の情報や、ソフトウェアのような財務情報として十分に価値が評価されていないものに、非財務情報の価値として注目が高まっている。企業自身が非財務情報として自社の事業のプロセスや価値を整理できて表現出来ているかどうか、企業が社会に対してそのような価値を生み出しているかどうかが、問われるようになってきた。

自由主義と全体主義

ESGとは何か?と考えていくと、自由平等の自由主義経済社会の中での価値なのではないだろうか。自由平等主義は、これと対比される全体主義とは、物事の決定の仕方が決定的に違う。なぜ全体主義が成立しないのか。決定権が少人数にあって多様性(ダイバーシティ)がなく、下から意見があがってこない。少数の意見に大勢が従うことになる。自由主義では、いろいろな意見がありすぎて、まとめるのは大変だが、それが重要。男性か女性か、白人かそうでないかだけがダイバーシティの重要性の本質ではない。ダイバーシティは自由平等主義の根幹である。ハイエクの考え方が近いのではないかと思い、読みなおす必要性を感じている。ESG投資も遡って考えると平等主義に端を発していることを頭に入れておく必要がある。

最近マルクス主義に注目が集まっているが、現代の社会問題を資本家のみに押しつけるのは間違っている。そもそも現代は誰が資本家に該当するか特定することも難しい。また脱成長は小さなコミュニティでなら実現できるかもしれないが、社会全体で考えるとダイバーシティの壁にぶつかるはずである。ではなぜ自由主義なのか? アダム・スミスが重要視した「分業」、また「ダイバーシティ」と「イノベーション」は、今の社会を作る上でどれも外すことができない。また、これは自由主義でなければ実現できないからだ。

ルールを正しく理解する

ESG投資を考える上で、もう一つ重要なのが「ルール」の捉え方だ。人間の本性は「競争」にあると考えたとき、その裏側にあるのは「勝つことで快感が得られる」ことだ。スポーツやゲームがその代表例であり、そのルールに注目している。

スポーツでルールが変わることがある。たとえばスキーのジャンプのように、一人の選手が勝ち続けるとルールが変わる。競技前に勝ち負けが決まっているような状態を修正するためにルールを変更するのだ。どちらが勝つか分からないような状態とする、すなわち競技を開始する前の平等を保つのがルールの役割だ。ルールは変わらないものと日本人は考えがちだが、それは間違っている。

またスポーツから離れて人権に目を移すと、欧米人からすると人権は、勝ち取った権利であり、決してゆずれない価値だ。どのような国家体制であろうと守るべきものであり、だから中国やロシアのような体制は受け容れられない。トランプであろうとバイデンだろうとアメリカの姿勢が変わらないことからも、それがよくわかる。ルールが守れない相手とは仲間になれず一緒に競争ができない。このあたりの感覚は、日本人が鈍いところなので注意が必要だ。今後ESGがルール化、法制化されていくことが検討されているため、ルールの本質が何かを理解することが極めて重要だと考えている。

今回の話の中で登場した推薦図書

  • 杉崎隆晴「スポーツは民主主義のバロメーター」…ルールに関連して
  • ビル・ゲイツ「地球の未来のため僕が決断したこと」…気候変動関連で一冊読むならこの本。企業の役員に薦めている。