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Q4. 上記の理由の他にも、トランジションが日本にとって中長期的に良い選択肢だと考える別の観点があると聴きましたが、説明いただけますか?
A4.
はい。長い目で見ると米国の世界の覇権国としての地位が今後かなり低下していき、一方でBRICS+諸国の結束が強まり、経済面でもG7より影響力が大きくなると考えられるからです。日本はトランジション技術でBRICS+の国々にグリーン化で貢献できる可能性が高いと考えています。
背景としてはロシアとウクライナの戦争で、米国がロシアへの制裁として経済制裁を科しています。その1つに、ロシアを通貨決済のSWIFT(スウィフト)から閉め出しています。これが完全に裏目に出て、米ドル基軸通貨体制が崩れる引き金になると思える点があります。SWIFTは銀行間の国際的な決済システムであり、例えば、私が個人で海外からの送金を受ける際にも日本の受取口座がある銀行のSWIFT番号を送金相手に知らせる必要があります。この制裁が米国の思惑とは反対に、完全に裏目に出ています。SWIFTから閉め出されたロシアは、米ドルでの決済ができなくなり、自国通貨や人民元などの通貨で国際的決済をするようになっています。またロシア、中国、サウジアラビア、インドなどは保有している外貨準備の米ドル債をかなり売却しており金を購入しているそうです。また、今年8月にはBRICS諸国の首脳会議で「金本位制」に基づく共通決済通貨を導入する検討が行われると噂されています。中国は人民元を基軸通貨にする野望を持っています。
注目すべき点は、ロシアと欧米の対立でBRICSやサウジアラビアなどの石油産油国が米国離れを起こしている点です。米国に従わないとロシアと同じ目に遭うとこれらの国々が気づいたからです。イスラエルとパレスチナ・ガザ地区のハマスとの戦争では米国がイスラエルを支援しており世界で孤立していることも、これに拍車をかけそうです。こうした米国離れが大きな流れになっており、中長期的には米ドルの基軸通貨体制、また政治、軍事での米国一強の体制が崩れる発端になると思います。
BRICSはブラジル・ロシア・インド・中国(China)の4か国の頭文字をとり2009年に始まり(当時はBRICsと表記)、その後南アフリカ(South Africa)が加わり5か国となっています。世界のGDPでBRICS5か国の経済が占める割合は、1992年には世界の16.45%(対してG7は45.80%)であったのに対して、2022年には31.67%(G7は30.31%)と既に逆転をしており、2030年を待たずしてBRICSの比率が50%になるとも言われています。さらに約20か国がBRICS加盟を公式に申し出ており、その他に20か国が加盟を希望していると報じられています。今年8月のBRICS首脳会議では、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の6か国がBRICSに新規加盟すると発表されました。
主要産油国は、米国を除いて全てがBRICS加盟国となります。これまで石油取引の決済は米ドルで決済されていましたが、今後はそうではなくなります。さらに、サウジアラビアは中国輸出入銀行と初の人民元建て融資協力を実施しています。また、6月にIMFはアルゼンチンの借り換え融資の75億ドル(1兆900億円)の払い込みを承認しましたが、期限を迎える27億米ドルの融資の返済を人民元ですることをIMFが認めており、歓迎しています。このような背景から、今後米ドル一極体制は間違いなく崩れると思います。日本はこれらの諸国との関係を今後強化する必要があると考えられます。
Q5. 欧州や米国の一部がトランジションという日本の方針に賛成しない理由についてはどのように考えていますか?
A5.
経済・産業政策の違いにあると思います。米国と英国の産業政策を見ると明らかですが、競争力のない製造業は新興国へ移してそうした国の低賃金労働を使って製造し輸入する、あるいは自国に海外企業を誘致しています。一方で自国ではIT、AI、金融やサービス産業などの世界的に優位に立てる産業を育成する方針です。グリーン化の政策を見ても自国・地域のグリーン化だけに焦点が当たっています。輸入品にも自国と同じ基準を当てはめます。国や地域の政策なので当たり前だとも思えますが、世界から製造業がなくなるわけでなく途上国に移ります。これは途上国の経済発展につながり、結果としてBRICSの台頭につながるプラスの面があります。しかし、グローバルなグリーン化の観点から考えると、欧州や米国のグリーン化の政策は、発展途上国の電力事情や製造業のグリーン化を視野には入れていません。
一方で、日本は現在も製造業に強みがあり、最近の自動車産業や鉄鋼産業の取組をみていると、今後は日本の産業のグリーン化のみならず、石油産業や製造業を担うBRICS諸国と結びつきを強めることで、これらの国の産業のグリーン化に貢献出来る可能性がかなりあると思えます。
また欧州や米国の自動車のEV化政策は、フォルクスワーゲンなどがディーゼル車の排ガス不正問題を起こしてから急速に話が進み、中国もこれに乗っかっている印象があります。別の視点で考えると、欧州や米国の自動車産業は日本の自動車産業のハイブリッド技術に完敗してしまったので、EV化に舵を切ることで、日本の自動車産業に勝つという選択肢しかなかったように思えます。中国も自動車産業では日本に追いつけないので国を挙げてEV化しています。
ただし、EV化にはまだ多くの問題があります。電池製造が追いつかない問題、電池の劣化した後の交換による環境負荷、中古となったEVは電池も劣化しているので下取り価格が大幅に下がる可能性、また充電施設が追いつかず、充電に時間がかかり過ぎ、かつ長距離の走行が難しい、さらに全ての自動車がEV化すれば電力の供給が不足するのではないかという懸念もあります。しかし、このようなマイナス面はあまり議論されていません。
日本のテスラオーナーから聞いた話ですが、テスラは電池交換に300万円かかるそうです。また肘当てなどの内装がひどくて新車購入からすぐにかなり浮き上がってしまったそうです(写真をみたのですが日本車ではありえないほどひどいものです)。テスラのディーラーに話したら、テスラがそこまで保証することはない、テスラではそれがあたりまえだと言われたそうです。自動車の価値の概念が日本とはかなり違うのでしょう。おそらく中古の下取り価格は電池の劣化もあり、かなりひどい価格となると予想されます。
このような点を考慮すると、欧州や米国は自国の産業が有利になることだけを考えているように思えます。BRICSのような国々の電力事情などを考えているようには到底思えません。急速に台頭するBRICSなどの国も含めたグローバルなグリーン化を考えると、日本のトランジションの考え方は日本のみならずBRICSなどの既存産業のグリーン化に技術的に貢献する可能性が高いことは間違いないでしょう。世界全体でのGHG排出削減では、日本がグリーン化技術で世界に貢献する可能性が高いと考えています。