【コラム】 信託期間5年の追加型投信ってなに?

「新たなインパクトファンドが個人投資家資金の流れを変える!?」というタイトルで第1回をスタートしました。投資信託が、個人投資家の長期資産形成に優れた金融商品として、新たな役割を果たす可能性が高まってきたと考えているからです。しかし、一方では、大変気になる動きがあります。近頃では、新たに設定される投資信託の多くが、5年の信託期間となっています。

このような考え方が、業界に広がっているのは驚きです。まるで20年も時代を遡ったような発想です。はっきり言えば、当時よりもお粗末な発想だと思います。投資信託の運用会社に長年勤務した者として、個人投資家の資産形成に、投資信託の役立つ時期がようやく来たと考えていますので、ひとこと苦言を呈しておきたいと思います。

信託期間5年のファンドが増えている理由については、業界の人に確認しました。繰上償還するファンドが増えて問題となっており、その状況を解決する対策として考え出されたようです。

繰上償還の問題は、それこそ10数年前からあります。規模が小さくなり、新たな投資家も見込めないファンドが数多くあった時期です。繰上償還の手続きは大変です。販売会社にお願いして、全保有者に繰上げの是非について問い合わせ、また手数料を無料とする乗り換え用のファンドを用意して対応する必要がありました。かなり苦労したと記憶しています。

繰上償還がここ数年また問題視されています。ですが、その解決策としてファンドの償還期限を5年とするという考え方は、投資家目線で投資家の利益を考慮した結果だとは、とても思えません。

ファンドの投資信託説明書(交付目論見書)をいくつかチェックしましたが、多少の違いが見られました。A社は「信託期間:2026年XX月XX日まで」とだけ記述しています。5年が信託期間なら単位型でテーマ型なのだろうと一瞬思いましたが、追加型投信で、脱炭素をめざしてESGへの取り組み等について評価を行なう、と交付目論見書では説明しています。投資信託は長期投資を目指すべきものだと長年考えてきた者としては、一瞬???と、頭が混乱しました。5年で本当に償還するのだろうかという疑問です。信託期間を延長する可能性については、記述がいっさいありません。5年で償還ならば、1年前には償還資金を準備する運用に切り替える必要があります。そのような記述もありません。5年満期なら単位型にすればすっきりしますが、追加型投信と記述しています。結局、このような疑問は、交付目論見書を読んでも解決しませんでした。 投資家や販売会社が、その点をどのように理解するべきなのか、ファンドの基本を説明する、交付目論見書を読んでも釈然としません。その役割をはたしているとは思えません。

一方で、B社は「償還期限:2026年XX月XX日まで。受益者に有利であると認めたときは… 信託期間を延長できます。」と記述しています。追加型投信です。こちらは、ファンド資産が十分に大きければ、5年後も信託期間を延長すると推測されます。ですが、どのような基準で、受益者に有利だとだれが判断するのだろうかという疑問や、繰上償還時と同様にすべての顧客に賛否を問うのかという疑問もわきます。

5年満期償還という考え方が、投資家の利益という視点に立って、受託者義務やスチュワードシップを満たすと、投資信託業界は本気で考えているのでしょうか。少なくとも、素晴らしい解決策だとほめられる話ではないと思います。

なぜ信託期間を問題視するかといえば、資産形成のために個人が長期保有や積み立て投資するのに適しているかどうかの判断材料になると考えているからです。5年ではそのような投資に向きません。さらに問題なのは、どちらのファンドもESGの取り組みをすると説明している点です。ESG(環境・社会・ガバナンス)が投資の重要な課題と考えられているのは、財務分析では十分には判断できない、企業の長期的な将来性と関わる要因と考えられているからです。専門家の間では、ESG投資には、20年、30年という長期視点が必要と考えられています。日本国民の公的年金の一部を運用するGPIFは、100年の計画とさえいっています。

さらにいえば、10数年前の私が経験した繰上償還では、少なくとも投資信託の顧客や販売会社、またコールセンターなどにも大変な迷惑をかけたという痛みを運用会社として感じていました。そう記憶しています。そのため、ファンドを立て続けに設定していくことには、一定の歯止めになったと今でも考えています。満期を5年として繰上償還をなくすという考え方では、そうした痛みや反省も生じません。問題点の根本的改善にはなんら貢献せず、かえって短期運用のファンドの増加を助長しかねません。

問題の根本は、運用会社や販売会社が、販売しやすいファンドを立て続けに設定する点にあり、個人投資家が長期に保有して資産形成に役に立てることが今もできていないことです。

最近出てきたESG型のインパクトファンドは、個人投資家の長期の資産形成に大切な役割を果たすことができると、本気で考えています。戦後はじめて、ようやくその機会が訪れました。実は上記の2ファンドも、基本的にそうした役割を果たす条件を満たしており、よいファンドだと考えています。確定拠出金、 iDeCo、NISAなどの、つみたて投資向けとして、個人の資産形成に役立つファンドにしてほしいと願っています。

だからこそ、ESG投資の意義や、長期の資産形成に向く運用である点を、個人投資家が正しく理解できるように努力してほしい。短略的なファンド設計で妨げてしまうのでは、投資信託の印象を変えることはできません。運用会社だけが、個人投資家の長期資産形成に役立つ投資信託の設定をめざせます。そう再認識してほしいと願っています。若い個人投資家はSNSなどで投資情報を知るようになっており、投資信託のブロガーやユーチューバーの意見も参考にする時代です。これからは、投資信託の本来のよさをいかす運用会社と販売会社が生き残ると思います。