金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」改定(案)に対する意見書

金融庁で意見を募集していた、ESG投信に関する「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)について、荒井個人の名義で下記の通り意見を提出しました。

ESG投信に関する「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)の公表について

PRIより提出された回答に基本的に賛成した上で、ポイントと考えるいくつかの点について追加的な説明を加えたものになります。

意見1

(2)ESG 投信の範囲

「ESG投信は、下記に該当する公募投資信託とする。1」ESGを投資対象選定の主要な要素としており、…

とあるが、どの程度、どのような方法で、投資対象選定に利用すれば「主要」な要素と見なすことができるかが明確でない。

ESG投資の実務では、さまざまな投資手法が利用・活用されており、複数の手法を利用する場合もある。どのような投資手法を、どの程度で利用すれば「主要な」と見なされるのかを明確にすべきだと考える。

さまざまな利用度の程度や範囲は幅が広く、色彩のグラデーションのように明確な区切りがない状況と考える。そのため、ESG投信であるかないかの判断には、少なくとも投資で活用するESGの項目とその活用・利用の手法、程度を示す必要があると考える。

例えば、投資ユニバースの決定段階で、ネガティブス・クリーニングあるいはポジティブ・スクリーニングを利用してさえいれば「主要な要素」と見なされるのか、あるいはESG投信である(最低)基準となりうるのか、現在の範囲の説明では判断がつかない。

なお、改訂案では、(2)1)以外にも、(3)開示の2)投資戦略、3)ポートフォリオ構成、5)定期開示を含めて、全体で11か所に「主要な要素」という表現が使われており、これらのか所も同様に明確になっていないと考える。

最初の(2)ESG投信の範囲」で、ESG投信の定義をまず示すべきだと考える。

なお、EUのSFDRなどを参考にすると、(3)開示の2)投資戦略、3)ポートフォリオ構成、4)参照指数、5)定期開示、で示されている条件を満たす公募投資信託をESG投信とするのが適切ではないかと考える。

意見2

(3)開示

1) 顧客誤認の防止

投資家に誤解を与えることのないよう、ESG投信に該当しない公募投資信託の名称又は愛称に、ESG、SDGs(Sustainable Development Goals)、グリーン、脱炭素、インパクト、サステナブルなど、ESGに関連する用語が含まれていないか。

「ESG投信に該当しない」公募投資信託とあるが、(2) 1)の「主要な要素」がまず明確にならないと、該当するかしないかが明確にならないと考える。

ESG投信の定義が投資信託業界で共有されてない現状の弊害として、運用会社が各社個別にESG投信とはどのようなものかを定義してウェッブ上で開示していることがある。

各社の定義が異なりバラバラであるため、特に個人投資家にとっては、どの定義が正しいのか、あるいはESG投信がよりグリーンであるのか、より優れたESG投資手法を用いているのか、比較して判断することが困難であると考える。

さらには、多くの運用会社の定義は、グローバルに広く利用されているPRIやGSIAの定義、分類、用語とかなり説明が異なっている。そのため、各社の定義が国際的にも正しいものか大いに疑問が生じる。

PRIやGSIAの定義を基準に考えると、明らかに間違っている、あるいは曖昧な定義が非常に多い。世界で2006年よりESG投資を主導し、国連のUNEPFIやグローバルコンパクトがサポートしているPRIによる定義は、現状でグローバルな金融機関の共通認識となっていると考えるが、その分類とは異なる分類をあえて採用した理由が各社共に明確でない。また各社のESG投信の定義は、日本の金融業界(あるいは投資信託業界の)に共通する定義ではなく、これらのESG投信の定義を読むと、各運用会社がESG投資について本当に正確に理解しているのか疑問にさえ思える場合がある。定義といってはいるが、各社のESG運用の特徴を示したものでしかないように思える。

なお、ESG投信だけでなく、同様な個社によるESG投資の定義づけは、保険会社などのアセット・オーナーでも見受けられる。その定義もPRIと全く同じ用語を使いながら、分類が異なっている。そのため、PRIの定義を正しいものとすると、同社の分類は間違っていると考えざるを得ない。そのようなケースが既に見受けられる。

こうした個社による定義づけはESG投信を国内で拡大する上では弊害でしかなく、また欧州で、またグローバルに販売できる金融商品、あるいはそのような金融商品を運用するに値する会社に該当しないと判断される可能性も高くなるように思われる。投資信託協会をはじめとして、各金融業界の協会に、ESG投信、ESG投資の定義を明確化させるよう金融庁が働きかけるなどの方策の必要性があるのではないかと考えている。

意見3

(3)開示

4) 参照指数

公募投資信託の運用において、特定のESG指数への連動を目指す場合、交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に、参照指数におけるESGの勘案方法を記載しているか。

参照指数におけるESGの勘案方法を記載しているかとあるが、どの程度の記載をすれば十分なのかが明確でない。各社の記載程度に大きな差が生まれる可能性があるが、最低限の項目について例示などすべきではないだろうか。

意見4

金融庁には、このようなESG投信(投資)に関する改定に際しては、PRIとミーティングを持ち、グローバルな各国・地域の規制の内容について確認することを強く推奨したい。

PRIは各地域・各国にポリシー担当者やポリシーアナリストを置くようになっており、グローバル・レベルでのESG投資あるいはサステナブル投資、責任投資に関する政策対応について理解があり、そうした政府レベルの会合への出席や、パブリックコメントも出しているので、検討の際に大変参考になると考えられる。

意見5

EUのSFDRを参考にすると、特に気になる点が2点ある。

1.PAI(principal adverse impacts)とDNSH(do no significant harm)基準に該当するミニマム・セーフガードの基準や、最低限のガバナンスに関する基準・規定がない。

わが国では、たばこ、男女間の賃金格差、取締役会の性別の多様性と関連する企業などを除外するESG投信はほとんどないと考えるが、グローバルコンパクトの原則、OECD多国籍企業行動指針などの最低限守るべき基準については触れるべきだと考える。

また、日本における対応方法としては、各社が決めるPAIとDNSHを開示することを推奨するのが良いのではないかと考える。

2.今回の当監督指針とは別な指針で今後示すべき項目であると考えるが、投資信託の運用会社だけでなく、ESG投信を販売する金融機関が顧客・見込み客に事前に説明すべき項目にサステナビリティの項目を入れることを明確にすべきであると考える。

SFDRでは、フィナンシャルアドバイザーなども含む12の事業体に適用されている。

また、MiFID IIの枠組みの2021年4月改定では、以下のように指摘している。

  • 投資アドバイスやポートフォリオマネジメントを行う会社は、金融アドバイスを提供する際に持続可能性を取り入れることや、顧客の選考を統合すること。
  • 既存の適合性評価には、一般的に顧客のサステナビリティに対する選好に関する質問は含まれておらず、また、大多数の顧客はそのような選好を自ら提起することはないだろうと思われる。
  • サステナビリティ関連の重要性をある程度有する金融商品は、明確なサステナビリティプレファレンスを示す顧客または潜在顧客に推奨できるようにする。

投資見込み顧客にサステナビリティの選考程度について尋ねることは、比較的容易な施策でと考えられるが、見込み顧客の関心をESG投信に向けて、その結果としてわが国のESG投信市場の拡大に資する、非常に有効な手段のひとつではないかと考える。