ESG投資は新たな段階へ(連載 第7回)

Q.7.

ESG投資の取り組みが日本でもかなり本格化していますが、現在の状況についてどのように考えていますか?

A.7.

今回は、青山学院大学名誉教授の北川哲雄先生のご意見を紹介したいと思います。北川先生には、官庁のESG関連の委員会でお会いする機会がありますが、先生はもともと薬品業界のアナリストの経験があり、アナリスト視点のご意見が、大変参考になると思いました。最近お聞きしたことでなるほどと思ったことを私なりにまとめてみました。

以前には、アナリストはある会社を何十年も担当して、普通の社員よりも会社をよく知っていたが、そうしたアナリストは今ではほとんどいなくなっている。DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法を使ったオーソドックスなアナリストの分析も教科書では存在していても、今ではあまりやっているところはないのではないか。現在は、わかりやすい情報、サステナビリティやガバナンス項目でも断片的な情報を精緻に分析して部分最適を求めるようになっている。今の時代は深い洞察力を必要とするスーパーアナリストよりも、データーアナリストが活躍する時代になってきたのかと思う。

資本市場の主役がアクティブからパッシブに変わったことを、大きな流れの中で注視すべきだ。ESG投資の普及と共にコモン・グッドバリューという考え方が主流を占めてきたことで、企業情報への要求開示内容も、以前のファンダメンタルズの分析とは変わってきた印象がある。優れたデータアナリストが、デジタル情報を解析して、定量から定性に意味のある情報を見つけ、有意義な因果関係を抽出することに移行する可能性が十分にある。情報開示の世界では、新たな世界がでてくると思っている。AI時代のアナリストがでてくるによって、企業の評価も活性化するのではないか。

2015年以降に、メジャープレーヤーが大きく変わってきた。新たなプレーヤーとして、議決権行使アドバイス会社やESG評価会社などが情報を出てきている。新しいサービスが展開することで、モニタリング、あるいはゲートキーピングすることの存在感が大きくなっている。

ESGアナリストがセルサイドとバイサイド(証券会社と運用会社)で生まれた。アセットオーナー(年金基金や保険会社など資金を保有する投資家)も影響力を持ち出した。それだけではなく、株主総会でもNPO、NGOなどいろんなプレーヤーが出てきた。

企業側も担当部門が、投資家担当のIR(Investors Relations)部門、株主対応のSR(Shareholder Relations)などに別れた。企業には、あらゆる登場人物に対するオープンな情報開示と厳しいモニタリングが求められるようになってきた。KPI、アウトプット、アウトカムもすべて定量的なエビデンスが要求される。

日本のガバナンスの変化は、他の国が5年でなしとげようとしたことを20年くらいでやろうとする。例えば女性の役員比率。イギリスは10%から30%にするのに5年でなしとげた。日本は20年でなしとげようということだが、ちょっとそういう時代ではなくなってきたのではないか。最後は大きなビッグバンを経て移行する。とうとうそういうところへ来たのではないかと思う。