インパクトファンドと最近の投資の新たな傾向(連載 第6回)

連載「新たなインパクトファンドが個人投資家資金の流れを変える!?」第6回

Q.6.

インパクトファンドとESGまたSDGsの関係の説明がありましたが、これはつい最近の新たな傾向でしょうか?また、その他に重要な傾向はありますか?

A.6.

まず、SDGsは最近ではテレビでも新聞でも目にしない日がなく、若い人は学校で学んでいますので、多くの人がもう当たり前と考えていると思います。一方で、ESGについては、第5回でいまでは機関投資の主流となっていると説明しました。しかし、専門家でなければ10年前、あるいは5年前でも聞いたこともない人が多かったと思います。本格化してきたと実感しているのは、この5年、日本ではとくにここ1〜2年です。まだ最近の変化です。さらに、この変化についてよく考えたいのは、少なくとも2050年に向けて、この流れが継続する点です。そう考えると、われわれは、現在、社会の考え方が大きく変化する大変革期にいることになります。

直近の変化としては、年金基金が共同して資金のCO2排出量の2050年ネットゼロを目指すNet-Zero Asset Owner Alliance、また運用会社のとり組むNet-Zero Asset Managers initiativeがスタートしています。銀行が投融資で目指すNet-Zero Banking Allianceも立ち上がっています。最近、日本では2050年に向けてカーボンニュートラルにとり組むという言葉が頻繁に使われています。それに対して、海外ではカーボンネットゼロあるいはカーボンネガティブという言葉が多く使われています。カーボンニュートラルと似ていますが違いがあります。企業は今すぐにCO2排出を全量なくすことは出来ませんので、排出する量を計算して、減らせていない分をオフセットする(相殺する)ことが出来ます。この仕組みは、一定の削減目標を超えた企業が、超えた分量を、削減目標を達成できていない企業に対して売ることが出来るシステムです。削減できない企業は、排出権取引市場で排出権を買って相殺する考え方です。こうすることで、削減目標を達成する企業には収益となり、一方で出来ない企業にはコストがかかり、どちらにも削減するインセンティブになるという仕組みです。

カーボンニュートラルは、極端にいえば、自社が排出したCO2排出量全量と同量を買い相殺することで達成できます。しかし排出権取引はあくまで補助手段であり、これでは最終的な2050年排出量ゼロ目的は達成できません。最近では、自社が排出するCO2を実際に削減することにとり組む企業が増えました。自社製品での電力使用量の削減、電力の再生可能エネルギー化、発電所の再生可能エネルギー化、植林や炭素回収・貯留技術、直接空気回収技術などがその方法です。ウインドウズ、ワード、エクセルなどでなじみのあるマイクロソフト社は、2030年までに自社が排出するカーボンフットプリントをゼロにすると2020年に発表しています。また2050年までに1975年の創業以来の排出量をゼロにするとも発表しています。この点については、また回をあらためて説明しますが、日本企業でここまで具体的な目標と取り組みを明確にして発表いるところはまだ見当たりません。

さて、最近では投資信託で排出量のネットゼロを目指すファンドが、日本でも設定されるようになりました。この背景には、世界的なCO2削減に向けて努力する大きな変化があります。第3回でも述べたように、昨年には米国、また11月前後に、中国やインドが相次いでCO2削減目標を公表しました。この3国で、世界のCO2排出量の50%に相当します。ですから、昨年11月以降、気候変動への取り組みでは先進国も発展途上国もそろってとり組む、新たな段階を迎えたと認識することが重要です。

インパクトファンドについては、理解しておくべき重要なポイントがあります。目先の変化に気を取られていると気づきにくい点です。それは、インパク投資が日本の投資信託にパラダイムシフトを起こさせる可能性があることです。ほとんどの機関投資家も、まだ気づいていないと思います。このポイントを指摘する文章や人をまだ見たことがありません。

歴史的な視点をもつことが重要です。株式市場が17世紀にオランダで設立されて以来はじめて、投資する際の判断に財務的な視点だけでなく、地球環境やグローバル社会へのインパクトも考えてする投資が、21世紀になって始まったと理解することです。金融市場の社会における役割が、大きく変化したと考えられます。また、地球レベルで社会の考え方や企業価値の捉え方に、大変革が起きている。さらに一歩進めて考えると、閉塞感のある資本主義が、新たな段階を迎える変化ではないかとも、とらえることが出来ます。

グローバルな社会では、これまで当たり前だと考えられていた価値や概念が大きく変化する、パラダイムシフトが起きている。インパクト投資は、単に環境や社会のテーマ型投資ではなく、この数十年に一度の大きな社会の変化に貢献し、変化の後押しする役割をもった投資と理解できます。これが、従来の投資、また従来のESG投資とも異なるインパクト投資の意義と考えています。こうした大変化に気がつく個人投資家と運用会社が増え、これを機会として、戦後の投資信託市場の目標であった「貯蓄から投資へ」という流れが生まれることを願っています。それが十分可能なほど大きなパラダイムシフトだと考えています。