インパクトファンドとESGまたSDGsの関係(連載 第5回)

連載「新たなインパクトファンドが個人投資家資金の流れを変える!?」第5回

Q.5.

インパクトファンドは、そのベースにESGやSDGsがあるとのことでしたが、どのような関連があるのでしょうか?

A.5.

インパクトファンドは、ESGやSDGsを考慮した投資の中でも、とくに投資目的と運用方法が非常に明快なファンドです。これまでのESG投資ファンドは、運用の内容を理解しにくいという問題がありました。インパクトファンドの多くは運用目的や目標を明確にしており、また運用結果についても一部を数値化して示すことで、投資家が運用内容についてよく理解できるよう工夫しています。また、未来の社会で生き残れそうな技術をもった企業に集中投資するため、インデックスファンドよりも高い収益率が期待できる可能性も高いと考えられます。投資家が長期に安心して投資するには、投資リターンが安定して得られることが重要ですが、さらには運用内容と結果に納得感が得られないと投資を継続することが難しいと考えられますので、長期の資産作りにもかなったファンドです。

ESG投資は、国連がサポートするPRI(責任投資原則)が2006年にスタートしたことが、きっかけとなっています。それに先立って、1920年頃に始まったといわれる社会的責任投資の歴史があります。このような投資は社会環境の変化や時代の変遷を受けて、2000年頃から社会と企業のサステナビリティ(持続可能性)という考えに重点を置くようになり、現在ではサステナブル投資と呼ばれるようになりました。これらの投資方法はESG投資とほぼ同じ考え方に基づいています。

では、サステナブル投資とESG投資とはなにが違うのでしょうか?PRIが設立されるまで、社会的責任投資やサステナブル投資は、世界の運用会社の中でも、そのような運用に特化した専門会社が行っている特殊な投資と投資専門家の間でも一般的に考えられていました。その背景には、年金基金の考え方があります。

年金基金は、資金規模では、現在、世界最大級のグループですが、被保険者から預かる資金を老後の支払いにそなえて運用するので、運用者には受託者責任(フィデューシャリー・デューティー:正しくは責任ではなく義務ですが、日本では責任と訳されて正式に使われています)があると考えられています。その第一の目的が、年金基金の運用では、財務的(金銭的)リターンを確保することです。PRI発足以前は、環境や社会などの要因を投資で考慮すると、財務的なリターンに悪影響を与えるのではないか、また受託者責任に反するのではないかと広く考えられていました。

2000年頃から、英国や欧州で年金法の改正が行われ、サステナブル投資をする年金基金は、そのような投資であることを開示するよう求められるようになりなりました。つまり、欧州各国では年金基金がESG投資を行うことが認められた訳です。しかし、その後もなかなか大きく広がりませんでした。PRIは、このような投資を年金基金に広めることを目的として発足しました。現在では、環境や社会が企業の価値に与える影響についても投資家や企業に広く理解されるようになり、現在では、財務以外の要因(非財務情報)を考慮することが受託者の責任であるとPRIもいう時代になっています。多くの投資家もESGが投資リターンにマイナスの影響を与えず、プラスの影響を与えると考えて、考慮しなければならない要因とみなすようになっています。

PRIは、年金基金や保険会社、運用会社、またESG投資をサポートするESG情報の指数会社や評価会社など約60の署名機関数で2006年にスタートしましたが、現在では4,900を超えるようになりました。日本からも114機関が参加しています。このような署名機関が運用する資産額は、2021年4月には121兆ドルを超えています。円換算で13.3京円=13,300兆円という、普段わたくしたちが見かけない大きな単位の規模です。ちなみに、2021年度の日本の国家予算は107兆円です。また上場株式市場は約707兆円で、その約19倍です。日本サステナブル投資フォーラムの調査、また同様な組織が世界的に連携しているGSIA(Global Sustainable Investment Forum)による各国の調査でも、回答機関が運用する総資産の内60%以上がサステナブル投資となっています。いかに巨大なマーケットであり、その比率からもESG投資が世界的に投資の主流となっていることが理解できるでしょう。

さらに最近では、上場株式だけでなく、今後上場が見込まれるプライベート・エクイティ、グリーンボンドやサステナブルボンドの債券、不動産リートなどにもESG投資の考え方が広がっています。それだけではなく、銀行にもサステナブルな考え方に基づいて融資をする考え方が広まりはじています。このため、こうした金融の全体を称して、サステナブル・ファイナンスというようになっています。

一方で、SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年の国連サミットで、全会一致で採択された、2050年までによりよい世界を目指す国際目標です。17の達成する目標(ゴール)と169の詳細な達成すべきターゲットから構成されています。発展途上国のみならず、先進国自身も取り込むべきものでとされていて、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓っています。SDGsは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継の取り組みです。
ちなみに、PRIとMDGsはどちらも、コフィー・アナン氏が国連事務総長の時代にスタートしました。アナン氏はガーナ出身で、国連職員から選出された初めての事務総長でした。

SDGsは、2030年までに達成すべき目標とターゲットであり、いつまでになにをするかが明確に決まっています。ですから、達成出来たあるいは出来なかったことも明確になります。一方でPRIは原則であり枠組みです。つまり、投資家にとって投資に際して考慮すべきさまざまな社会的課題(すなわち企業にとっての課題)を、ESG(環境・社会・ガバナンス)という大きな枠組みでくくって捉えたものです。その中身については機関投資家が自社で検討して決めることになります。ESG課題の中身は時代の変化とともに変化します。新たに生じる課題もあり、一方で改善する課題もあります。また、欧州や米国、日本などの各地域や国の状況によっても、実際にとり組むべき社会的な課題は異なります。

このように違いはありますが、世界的に取り組むべき課題であることはどちらにも共通しています。そのため、機関投資家や企業も、自社の投資あるいは製品製造や販売が、SDGsの達成にどのように貢献しているかを開示するようになっています。ESG投資にはいろいろな投資手法があります。インパクトファンドは、ESG投資の中でも、ESGやSDGsの課題の解決に大きなプラスのインパクトを産むと考える企業へ集中的に投資し、かつ、投資の考え方や投資方法、投資結果、プラスのインパクトについて、詳しく説明している特徴があります。このような背景と特徴がインパクトファンドにはあります。